国境 の 長い トンネル を 抜ける と 【雪】国 で あっ た 。 【雪】 の 冷気 が 流れ こん だ 。   明り を さげ て ゆっくり 【雪】 を 踏ん で 来 た 男 は 、 襟巻 で 鼻 の 上 まで 包み 、 耳 に 帽子 の 毛皮 を 垂れ て い た 。   もう そんな 寒さ か と 島村 は 外 を 眺める と 、 鉄道 の 官舎 らしい バラック が 山裾 に 寒々 と 散らばっ て いる だけ で 、 【雪】 の 色 は そこ まで 行か ぬ うち に 闇 に 呑ま れ て い た 。 去年 は 大【雪】 だっ た よ 。 よく 【雪】 崩れ て ね 、 汽車 が 立往生 する ん で 、 村 も 焚出し が いそがしかっ た よ 。 と 、 葉子 は 【雪】 の 上 を 目 捜し し て 、 高い 響き の まま 夜 の 【雪】 から 木 魂 し て 来 そう だっ た 。   ラッセル を 三 台 備え て 【雪】 を 待つ 、 国境 の 山 で あっ た 。 トンネル の 南北 から 、 電力 による 【雪】崩 報知 線 が 通じ た 。 除【雪】 人夫 延人員 五千 名 に 加え て 消防 組 青年 団 の 延人員 二千 名 出動 の 手配 が もう 整っ て い た 。   その よう な 、 やがて 【雪】 に 埋もれる 鉄道 信号 所 に 、 葉子 という 娘 の 弟 が この 冬 から 勤め て いる の だ と 分る と 、 島村 は 一層 彼女 に 興味 を 強め た 。   宿屋 の 客引き の 番頭 は 火事場 の 消防 の よう に ものものしい 【雪】 装束 だっ た 。   島村 は 汽車 の なか の ぬく み が さめ なく て 、 そ と の ほんとう の 寒 さ を まだ 感じ なかっ た けれども 、 【雪】国 の 冬 は 初めて だ から 、 土地 の 人 の いでたち に 先ず おびやかさ れ た 。 【雪】 の 後 で お天気 に なる 前 の 晩 は 、 特別 冷え ます 。 【雪】 の 色 が 家々 の 低い 屋根 を 一層 低く 見せ て 、 村 は しい ん と 底 に 沈ん で いる よう だっ た 。 「 【雪】 は ? この 【雪】 は この間 一 尺 ばかり 降っ た の が 、 だいぶ 解け て 来 た ところ です 。 「 もう いつ 大【雪】 に なる か 分り ませ ん 。 「 東京 は まだ 【雪】 が 降ら ない の ?   あの 時 は ―― 【雪】崩 の 危険 期 が 過ぎ て 、 新緑 の 登山 季節 に 入っ た 頃 だっ た 。 (以下省略)