【雪】ありて縮あり、雪は縮の親というべしと、昔の人も本に書いている。                       【雪】がこいの簾をあけて、雪解の春のころ、昔は縮の初市が立ったという。                       【雪】のなかで糸をつくり、雪のなかで織り、雪の水に洗い、雪の上に晒す。                       【雪】の後でお天気になる前の晩は、特別冷えます。                       【雪】の降る前は冷えるんですよ。                       【雪】の色が家々の低い屋根を一層低く見せて、村はしいんと底に沈んでいるよ                       【雪】の信号所で駅長を呼んだ、あの声である。                       【雪】の底で手仕事に根をつめた織子達の暮しは、その製作品の縮のように爽か                       【雪】の斑らな屋根は板が腐って軒に波を描いていた。                       【雪】の冷気が流れこんだ。                       【雪】を積らせぬためであろう、湯槽から溢れる湯を俄づくりの溝で宿の壁沿い                       【雪】国らしい子供の年中行事である。                       【雪】催いである。 ているが、この国では昔から雁木というらしく、【雪】の深いあいだの往来になるわけだった。         岳廻りを見、胴鳴りを聞いて、【雪】が遠くないことを知る。 バラックが山裾に寒々と散らばっているだけで、【雪】の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。                     と、【雪】の上に落ちている裾をつまみ上げて、                     と、【雪】の晴天を見上げて、駒子が言っただけのことはあった。            そうして水泳みたいに、【雪】の底を泳ぎ歩くんですって。 村はなぜかもう一度声を強めようとした途端に、【雪】の鳴るような静けさが身にしみて、それは女に惹きつけられたのであった のほんとうの寒さをまだ感じなかったけれども、【雪】国の冬は初めてだから、土地の人のいでたちに先ずおびやかされた。               「僕が来てから、【雪】が大分消えたじゃないか。                   先祖代々【雪】に埋もれた鬱陶しい家のなかを覗いてゆくような気がした。                 あの時は――【雪】崩の危険期が過ぎて、新緑の登山季節に入った頃だった。                      「【雪】が凍みてるから気をつけてね。                      「【雪】だろう?                      「【雪】は?                      「【雪】見に来たいが正月は宿がこむだろうね。                      「【雪】催いね。           自分の縮を島村は今でも「【雪】晒し」に出す。 引きの番頭は火事場の消防のようにものものしい【雪】装束だった。 ばに晒し終るという風に、ほかにすることもない【雪】ごもりの月日の手仕事だから念を入れ、製品には愛着もこもっただろう。                     深い【雪】の上に晒した白麻に朝日が照って、雪か布かが紅に染まるありさまを考え               村里の女達の長い【雪】ごもりのあいだの手仕事、この雪国の麻の縮は島村も古着屋であさって夏      葉子の悲しいほど美しい声は、どこか【雪】の山から今にも木魂して来そうに、島村の耳に残っていた。       乗って来た自動車のわだちのあとが【雪】の上にはっきり残っていて、星明りに思いがけなく遠くまで見えた。                     体が【雪】のなかへすぽっと沈んでしまって見えなくなるの。       それが続くと、あの電信柱の電燈が【雪】のなかになってしまうわ。       そのほの暗さのために、まだ西日が【雪】に照る遠くの山々はすうっと近づいて来たようであった。                     よく【雪】崩れてね、汽車が立往生するんで、村も焚出しがいそがしかったよ。                     薄く【雪】をつけた杉林は、その杉の一つ一つがくっきりと目立って、鋭く天を指し      それらの円い石は日のあたる半面だけ【雪】のなかに黒い肌を見せているが、その色は湿ったというよりも永の風雪に                     同じ【雪】国のうちでも駒子のいる温泉村などは軒が続いていないから、島村はこの                  凍りついた【雪】を下駄で掠めて飛ぶかと見え、腕も前後に振るというよりも両脇に張った ら二月にかけて晒すので、田や畑を埋めつくした【雪】の上を晒場にすることもあるという。           その段々の畑の畦は、まだ【雪】に隠れぬし、余り傾斜もないから一向たわいがなかった。               こちら側にはまだ【雪】がなかった。                 「東京はまだ【雪】が降らないの?                 青い葱はまだ【雪】に埋もれてはいなかった。                   そのうち【雪】になると、山から出歩くのが難渋になるんでしょう。             ラッセルを三台備えて【雪】を待つ、国境の山であった。              そのような、やがて【雪】に埋もれる鉄道信号所に、葉子という娘の弟がこの冬から勤めているのだ                 それにつれて【雪】に浮ぶ女の髪もあざやかな紫光りの黒を強めた。       十日も前から、村の子供等は藁沓で【雪】を踏み固め、その雪の板を二尺平方ぐらいに切り起し、それを積み重ねて         国境の長いトンネルを抜けると【雪】国であった。   「ここらあたりは山家ゆえ、紅葉のあるのに【雪】が降る。                    真黒に【雪】焼けしてるから分らないの。 きあたる木霊に似た音を、島村は自分の胸の底に【雪】が降りつむように聞いた。       そしてもう一度、十五日の明け方に【雪】の堂の屋根で、鳥追いの歌を歌うのである。     それを思い出すと、鏡のなかいっぱいの【雪】のなかに浮んだ、駒子の赤い頬も思い出されて来る。 ば、音はただ純粋な冬の朝に澄み通って、遠くの【雪】の山々まで真直ぐに響いて行った。                     この【雪】はこの間一尺ばかり降ったのが、だいぶ解けて来たところです。 のを受け取って、宿で聞いてみると、果してこの【雪】国でも最も暮しの楽な村の一つだとのことだった。                  それはこの【雪】国の夜の冷たさを思わせながら、髪の色の黒が強いために、温かいものに 気にもなれないでいると、女はやはり生れはこの【雪】国、東京でお酌をしているうちに受け出され、ゆくすえ日本踊の師匠とし                     その【雪】のなかに女の真赤な頬が浮んでいる。 く干した襁褓の下に、国境の山々が見えて、その【雪】の輝きものどかであった。                   足もとの【雪】も少しゆるんで来るらしかった。                   星明りの【雪】の上に赤い色だとわかった。            もう日が昇るのか、鏡の【雪】は冷たく燃えるような輝きを増して来た。                   その頃の【雪】の深さは一丈もある。                    屋根の【雪】を落す男を見上げて、                しかし、屋根の【雪】の解ける樋の音は絶え間なかった。    隣りから隣りへ連なっているから、屋根の【雪】は道の真中へおろすより捨場がない。                   今朝山の【雪】を写した鏡のなかに駒子を見た時も、無論島村は夕暮の汽車の窓ガラスに                  人垣の前の【雪】は火と水で溶け、乱れた足形にぬかるんでいた。           毛よりも細い麻糸は天然の【雪】の湿気がないとあつかいにくく、陰冷の季節がよいのだそうで、寒中に織 行き、峰にだけ淡い日向を残す頃になると、頂の【雪】の上は夕焼空であった。             実際は大屋根から道の【雪】の堤へ投げ上げるのだ。                    今年の【雪】はひどかったわ。 産地へ晒しに送るなど厄介だけれども、昔の娘の【雪】ごもりの丹精を思うと、やはりその織子の土地でほんとうの晒し方をして                    一面の【雪】の凍りつく音が地の底深く鳴っているような、厳しい夜景であった。              高い響きのまま夜の【雪】から木魂して来そうだった。                  遠い山々は【雪】が煙ると見えるような柔かい乳色につつまれていた。     績み始めてから織り終るまで、すべては【雪】のなかであった。         また縮を晒し終るということは【雪】国が春の近いしらせであったろう。              向う側へ渡るのには【雪】の堤をところどころくりぬいてトンネルをつくる。         鏡の奥が真白に光っているのは【雪】である。  島村も火燵から振り向いてみると、スロオプは【雪】が斑らなので、五六人の黒いスキイ服がずっと裾の方の畑の中で辷ってい               ちょうどその頃は【雪】が一番深い時であろうから、島村は鳥追いの祭を見に来ると約束しておい                  と、葉子は【雪】の上を目捜しして、                    汽車は【雪】崩に埋れやしないか。                    右手は【雪】をかぶった畑で、左には柿の木が隣家の壁沿いに立ち並んでいた。                    白縮は【雪】へじかにのばして晒す。 泉へは来られないだろうという気がして、島村は【雪】の季節が近づく火鉢によりかかっていると、宿の主人が特に出してくれた               そうして子供等は【雪】の堂の屋根に上って、押し合い揉み合い鳥追いの歌を歌う。               それから子供等は【雪】の堂に入って燈明をともし、そこで夜明しする。                   その夜は【雪】でなく、霰の後は雨になった。                    今夜は【雪】だわ。                 雨戸もなにも【雪】に持って行かれちゃってるのよ。        「尼さんばかりが寄って、幾月も【雪】のなかでなにをしてるんだろうね。     島村は聞き覚えている、夜汽車の窓から【雪】のなかの駅長を呼んだ、あの葉子の声である。             明りをさげてゆっくり【雪】を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた で甘くなって、杉の枝から共同湯の屋根に落ちる【雪】の塊も、温かいもののように形が崩れた。        トンネルの南北から、電力による【雪】崩報知線が通じた。        それは三間四方に高さ一丈に余る【雪】の堂である。   スキイ場に売店があるでしょう、あの二階を【雪】崩が突き抜けて、下にいた人はそんなことを知らなくて、変な音がするか 由にしたし、島村が初めて駒子を知ったのも、残【雪】の肌に新緑の萌える山を歩いて、この温泉村へ下りて来た時のことだった 紅葉の銹色が日毎に暗くなっていた遠い山は、初【雪】であざやかに生きかえった。 島村が朝寝の床で紅葉見の客の謡を聞いた日に初【雪】は降った。                      除【雪】人夫延人員五千名に加えて消防組青年団の延人員二千名出動の手配がもう   やがて年の暮から正月になれば、あの道が吹【雪】で見えなくなる。           「そうよ、これから、地吹【雪】が一晩中荒れる時に、あんた一度、来てごらんなさい。                     表層【雪】崩なんだけれど、それをラジオで大きく放送したものよ。        「この先きの町の中学ではね、大【雪】の朝は、寄宿舎の二階の窓から、裸で雪へ飛びこむんですって。                 「もういつ大【雪】になるか分りません。                   去年は大【雪】だったよ。     窓で区切られた灰色の空から大きい牡丹【雪】がほうっとこちらへ浮び流れて来る。            島村は去年の暮のあの朝【雪】の鏡を思い出して鏡台の方を見ると、鏡のなかでは牡丹雪の冷たい花びら ぶかと見る間に消えてしまったが、それはあの朝【雪】の鏡の時と同じに真赤な頬であった。 態に入り易い彼にとっては、あの夕景色の鏡や朝【雪】の鏡が、人工のものとは信じられなかった。 かわらず、どうしたはずみかそれがまざまざと白【雪】の色に見えた。                   道端の薄【雪】のなかに葱の列が立っていた。 いるので、駅前の小高い広場を歩きながら、四方【雪】の山の狭い土地だなあと眺めていると、駒子の髪の黒過ぎるのが、日陰の